モタードという選択肢|“オフでもオンでもない”軽快なる異端
バイクには無数のスタイルがある。
クラシック、スーパースポーツ、アドベンチャー、クルーザー……。
でもそのどれにもきっちり収まらない、“境界線に生きるバイク”がある。
その名はモタード(Motard)。
舗装路での軽快な走り、
未舗装路でも走破できるタフさ。
そして何より、乗り手の「気分」をダイレクトに表現できる自由さ。
本稿では、モタードというスタイルの背景から魅力、車種紹介、選び方まで──
“なんとなくカッコいい”だけでは終わらせない、モタードを語り尽くす。
モタードとは何か?|そのルーツと定義
モタードは、オフロードバイクをベースにオンロード仕様へモディファイされたスタイル。
語源はフランス語の「Motard(=バイク乗り)」から来ており、欧州では「スーパーモト」とも呼ばれる。
そのルーツは1980年代のアメリカ・ヨーロッパ。
ダートと舗装路が入り混じった特設コースを全開で駆け抜ける“スーパーモト”という競技から生まれた。
ジャンプ台もある、タイトなカーブもある、ダートで滑らせる……
そんなコースで鍛え上げられたバイクたちは、自然とストリートでの高い旋回性能とアグレッシブなスタイルを持つようになった。
つまりモタードとは──
- 「見た目はオフロード」
- 「タイヤはオンロード」
- 「走りはストリート全振り」
という、ちょっと反則級な異端児。
モタードの基本構成|何が“普通”と違うのか
1. オフロードベースのシャシー
軽量で細身、アップライトなポジション。
これにより、俊敏な切り返しとコントロール性を獲得している。
2. 17インチオンロードタイヤ
ここが最も“モタードらしい”ポイント。
オフ車の21/18インチから、17/17のオンロードサイズに変更。
太いタイヤで高いグリップと安定した旋回性能を実現。
3. ハイアップマフラー&ロングサス
ダート対応の長めサスペンションと、エンジン上に設置されたマフラー。
この構造が、オンロードバイクにはない跳ねるような挙動とワイルドな外観を生む。
4. 視点の高さ=見える世界が違う
車高は高く、シート位置も高い。
街中でもバスドライバーのような目線を得られ、視認性・存在感ともに高い。
モタードの魅力は“反応の速さ”にある
1. 軽快なハンドリング
車体の軽さと直立したライディングポジションによって、「バイクと対話する感覚」が圧倒的に近い。
特に低速での取り回しの良さと、狭い交差点での旋回性能は群を抜いている。
2. 街に映えるスタイル
無骨なフェンダー、丸目ヘッドライト、アップマフラー。
クラシックでもスポーツでもない、“走りを意識した無駄のなさ”がある。
服装も選ばない。ライディングウェアからストリートまで、幅広くマッチする。
3. “少しだけ”オフロードも走れる
あくまでオンロード仕様だが、ベースはオフ車。
砂利道や軽めの林道であれば余裕で走れる。
つまり、「予定にない寄り道」に強いバイクだ。
こんな人におすすめ
- バイクは“ヒラヒラ曲がる”感覚が好きな人
- 渋滞をスイスイ抜けたい人
- オフ車に惹かれるけど街乗り重視の人
- 軽さを武器にしたい人
- ちょっと人と違うバイクに乗りたい人
代表的なモタード車種
■ Honda CRF250M
CRF250Lのモタード仕様。
オンロードでの操縦安定性とオフ車らしさのバランスが秀逸。
■ Yamaha WR250X
ハイパワー250ccモタードの代表格。
絶版となった今でもプレミア価格で取引される。
■ Kawasaki KLX230SM
近年登場したストリート向け軽量モタード。
燃費・扱いやすさ・デザインの三拍子。
■ Suzuki DR-Z400SM
中排気量モタードの定番。
トルクもあってツーリングでも楽しい。
モタードの弱点は?
完璧に見えるモタードにも、当然“クセ”はある。
- シート高が高い(足つきが悪い)
- 高速巡航が苦手(軽い+フロントが浮きやすい)
- 積載力が低い(ツーリングバッグの選択肢が限られる)
- 長距離より“短距離を楽しむ”系
つまり、モタードは「旅バイク」ではなく「遊びバイク」。
でも、だからこそ一度乗るとやめられない。
まとめ|モタードは“感覚で走る”ためのバイク
バイクの世界にはいろんな選択肢がある。
だけど「モタード」というジャンルは、
スペックやジャンル分けでは測れない“乗って楽しい”バイクだ。
軽さ。
視点の高さ。
クイックな応答性。
そして、どこでも止まれて、どこでも曲がれる自由。
バイクと一体になれる瞬間を、一番簡単にくれるのがモタードだ。
速さでも、快適さでもなく──
「もっとバイクを感じたい」と思ったとき、
その答えは、きっとここにある。